〈 第壱章 〉


一通の手紙が届いた。
なんの飾り気もない紙につづられた一文。

本家から分家に送られてきたその手紙に、


分家が揺れた。


それは、氷室家当主直筆の手紙だった。
霧の深い夜に分家を束ねる者達が一つに集まる。

― 儀式に赴く者を決めるために。

長い間、本家の人間たちのみで行われてきた儀式。
分家の人間は立ち入ることを許されていなかった。

今回の事がきっかけになり、本家との繋がりがもてれば…。

そういったものもあるのだろう。本家と分家では


― あまりにも違いすぎる。


木が軋む渡り橋の上でふと立ち止まり、氷室邸を仰ぎ見る。
まるで、何かを隔てるような威圧感とかすかに感じた眩暈に
目を細めた。

本家から出迎えた者は、読み取れない表情で黙々と前をいく。

本家に踏み入る分家の人間を快く思っていないのは、
雰囲気から察することができた。

予期せぬ来訪者。


『 儀式に立ちあわせるは、齢
(よわい)二十頃の男児。
     本家での扱いは「客人」として迎いいれるものなり。 』


氷室家当主の指定してきた内容に分家の誰が異を唱えるだろうか。
また本家の人間にも例外がないことを意味していた。

「御方様は……一体どういうおつもりか……」

出迎えの者がつぶやいた独り言は一際甲高く啼いた鳥の声にかき消された。



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