〜学生の手記・一〜
「アニ シス。スグ カエレ」
一通の電報が、僕の運命を変えた。
信じられなかった。
今まで最も優れた当主と言われた、
あの氷室家の当主が亡くなったというのか。
〜学生の手記・弐〜
僕は、ありえないものが昔から見えた。
誰もいないところに向かって、泣いたり笑ったり怯えたりしている僕を見て、
母はたいそう心配したらしい。
前の儀式が行われたとき、半狂乱になった僕をみて、
母は黙って、僕を連れだした。
それ以来、氷室家には帰っていない。
月日が経ってからも、僕は忘れられなかった。
庭で散歩していた女性は元気だろうか、
壁にいた人は、まだ苦しんでいるのだろうか。
そんなとき、僕は射影機に出会った。
これならば、彼らを他の人に見せることができるかもしれない。
作りかけの射影機を携え、僕は氷室家に帰る決心をした。
〜学生の手記・参〜
氷室家に帰った僕を待ち受けていたのは、しょう気と死体の山だった。
・・・禍刻だ。
起こってしまったのだ、ついに。
生き残っている人々は、儀式に参加しなかった、足腰の立たない老人たち、
産み月の女達、そしてそれに関わる人々だけだった。
生き残った人々は、黙々と親族の死体を運び出していた。
”夜が来る・・・。あれが来る・・・。”
そんな言葉をつぶやきながら。
〜学生の手記・四〜
5日目、ようやく地下道まで辿り着いた。
異界への扉は、わずかに開き、しょう気が吹き出していた。
近くによるだけで、具合の悪い者が続出した。
扉の近くに、鏡のかけらがあった。
1枚・・・2枚・・・3枚・・・・。
僕は、かけらを集め、それ以上の探索を止めることにした。
遺体を引き揚げた地下道は、封鎖することにした。
度重なる地震。
ここも、いつ崩落するか、わからない。
もうすぐ、夜が来る・・・・。
たくさんの”ありえないもの”が、くる。
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